昨日(2024.1.5)金曜ロードショーで『千と千尋の神隠し』を観ていて、柳田國男思想を感じ取ったので書きます。
湯屋に来る客の正体
千尋が働く事になった湯屋に来る客は人間ではありません。ツノが生えていたり、手足が多かったりと異形の姿で描かれており、初めて見た方は妖怪やモンスターを想像するのではないでしょうか。
湯婆婆(ゆばあば)は「人間の来るところじゃないんだ。八百万(やおよろず)の神達が疲れをいやしに来るお湯屋なんだよ」と千尋に説明しています。
湯屋は日本全国から神様が訪れる場所だったのです。
かわいい鳥のような姿をした子の方々も神様です。無礼があってはいけません。かわいいですが。
八百万(やおよろず)の神とは?
漢字ではっぴゃくまんと書いて「やおよろず」と読むように非常に多くの数を示す意味です。
島根県にある出雲大社には「神在祭(かみありさい)」という、旧暦10月に全国の八百万(やおよろず)の神々が出雲の国に集まる祭りがあります。
出雲以外の地域では10月に神様が出雲へ旅立ち、留守になるので「神無月(かんなづき)」というのですね。
民俗学の父 柳田國男の『妖怪談義』
見た目は妖怪のように見えるが、実は神様だった!という『千と千尋の神隠し』で味わう体験について日本の民俗学者である柳田國男は以下のように説明しています。
「妖怪は神の零落したものである」
つまり、私たちが妖怪と恐れているものは、はるか昔人々が神として崇めていたものである。時が経つにつれて信仰が薄れていった結果、断片的な情報だけが伝承され、何かが祀られているらしい…と不気味さだけが残ったということです。
かつては神だったものが妖怪となってしまた事例を1つ紹介したいと思います。
妖怪になった夜刀神
神だったものが妖怪と呼ばれている一例に夜刀神(やとのかみ)があります。伝承ではその姿を見た者は一族もろとも滅んでしまうとされる、角が生えた蛇神とされています。
『常陸国風土記』には夜刀神を神として祀った事が以下のように記載されています。
26代継体天皇の時代、箭括氏 麻多智(やはずのうじ またち)は葦原(あしはら)を開墾して田をつくった。その時、夜刀神が群をなしてやってきて邪魔をしたので、麻多智(またち)は神の土地と人間の土地の境界を設け、夜刀神を追い払った。そして、社を建てて夜刀神を祀ることとした。
実際に茨城県には夜刀神を祀る愛宕神社・夜刀神社があります。夜刀神は池を守る水の神として信仰されていましたが、信仰する人々がいなくなった結果、いつのまにか妖怪として数えられるようになってしまったのです。
信仰が忘れ去れられた結果、妖怪として扱われるようになった神は日本だけではないようです。
ベルゼブブになったバアル神
ベルゼブブはキリスト教における悪魔の一人で、旧約聖書『列王記』や新約聖書『マタイ福音書』に登場します。
鳥山明『サンドランド』の主人公悪魔ベルゼブブ
元はバアル・ゼブル(君主バアル)として信仰されていたものが、ユダヤ教、キリスト教の教えと異なるという理由から邪教の神すなわち悪魔であると認定されてしまいました。
アッシュルバニパル
バアル神は嵐と慈雨の神としてメソポタミア地域で信仰されていたと考えられてており、アッシリア王のアッシュルバニパルや、ポエニ戦争で活躍したマケドニアのハンニバルも名前の一部にバール神を受け継いでいます。
ハンニバルのアルプス越え
このように初めは神であったものが、信仰が継承されなかったり、他の宗教に征服されたりして、邪悪な存在として扱われる事がある事を見つけ出し、体系化したのが柳田國男ではないでしょうか。
なお、全ての妖怪が神の零落した姿であるわけではなく、妖怪の一部はかつて神だったと解釈しました。
まとめ
・『千と千尋の神隠し』に登場する湯屋の客は妖怪ではなく八百万(やおよろず)の神達
・現代ではかつて信仰されていたが、妖怪になってしまった神がいる
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