237話、14巻で登場した宿禰の呪具の元ネタについて解説します。ネタバレ注意です。
引用;呪術廻戦237話、呪術廻戦14巻
神解けとはどんな意味か?
両面宿儺と鹿紫雲の戦いで登場した「神解(かむとけ)」は万(よろず)が残した呪具です。
神解け/霹靂(かむとけ)を辞書で検索すると「雷が落ちる事」の意味がヒットします。
奈良県五條市西久留野町には宮前霹靂(みやさきかんとけ)神社という雷神を祀る神社があります。『延喜式神名帳』に記載のある古社で、祭神として 宮前霹靂神を祀っています。
宮前霹靂神は『古事記』に登場しないことから、自然神としての雷神を当地に祀った社であると考えられています。古来稲作を営んだ日本人は雷は夏場の夕立をもたらし、稲の実りを促す尊いものとして考えられ、全国各地のいたるところで雷の神を祀る神社が残っているのです。
日本神話における雷神 火雷(ほのいかづち)
宮前霹靂神社の近くには他にも雷神を祀った式内社の「火雷(ほのいかづち)神社」(御山町に鎮座)があります。
金剛山地と紀伊山地に挟まれたこの地域では雷が発生しやすい地形で、昔から雷が多かったようです。特に夏場は山地にぶつかった上昇気流が積乱雲となり雷を起こしたのでしょう。
『鬼滅の刃』より
祭神の火雷神(ほのいかづちのかみ)は『古事記』『日本書紀』で「伊邪那岐命(イザナギノミコト)の黄泉の国訪問」に登場する雷神です。
死んだ妻の伊邪那美命(イザナミノミコト)に会うためにイザナギは黄泉の国(死者の国)に下りイザナミと再開した。しかしイザナミは黄泉の国の食物を食べてしまったので地上には戻る事が出来ないと言った。せっかく自分を追って黄泉の国まで来たイザナギのために、黄泉の神へ談判しに御殿へ行くので決して覗かないでください、と言った。
その後に何時まで経っても戻らないイザナミの事が気になり、イザナギは櫛の歯に火を点けて御殿に入った。 そこには…変わり果てたイザナミの姿が…体に蛆が集まり、頭に大雷、胸に火雷、腹に黒雷、女陰に拆雷、左手に若雷、右手に土雷、左足に鳴雷、右足に伏雷の八柱の雷神(八雷神)が生じているイザナミの姿を見てしまう。
という話です。火雷はイザナミの体から生じた雷の神の一角だったのですね。このような古事記神話を元にして大和政権の影響を受けた地域では、古来から自然神として祀られていた雷神(神解け)から日本神話の火雷神信仰が同一視された場所もあるようです。
神解けの由来は?
神解けの名前の由来は古来の雷神信仰から来ている事がわかりました。この不思議な形状はいったい何を元にしているのでしょうか。
ネパールにある金剛杵
「金剛杵(こんごうしょ)」という 日本仏教の一部宗派(天台宗・真言宗・禅宗)やチベット仏教ので用いられる法具があります。
元はインド神話の武器が煩悩を滅ぼし、悟りを開くための法具となったようです。上はインド神話の軍神で暴風を司る神インドラですが両手に金剛杵(インド名:ヴァジュラ)を持っています。
インドラは金剛杵(ヴァジュラ)を使って天候を操り、雷をも自在に操ると言われており、宿禰が呪具によって鹿紫雲へ与えた攻撃と一致します。
また、金剛杵(ヴァジュラ)の製造方法についても類似点があるのです。インドの叙事詩『マハーバーラタ』には金剛杵(ヴァジュラ)の由来がかかれています。
インドラが蛇の姿をした悪魔を倒すために、創造主ブラフマーに相談すると、偉大な仙人であるダディーチャの骨を使って金剛杵(ヴァジュラ)を作るように告げられた。工巧神トヴァシュトリがダディーチャの骨から金剛杵(ヴァジュラ)を作り、それを使ってインドラは蛇の悪魔を倒した。
仙人ダディーチャが犠牲になり、工巧神トヴァシュトリが武器を作った逸話は、万が宿禰のために命をかけて作った呪具である事と似ていますね。
金剛杵(ヴァシュラ)が日本にもたらされたのは奈良時代〜平安時代に密教が伝えられた時代となります。金剛杵(ヴァシュラ)は真言宗、天台宗、禅宗に取り入れられていきました。
尾形光琳が描いた雷神の両手に握られているのも金剛杵(ヴァシュラ)のように見えます。中世から江戸期にかけても一貫して雷を象徴するアイテムだったのですね。
まとめ
・神解けの名前の由来は自然神である雷神への信仰からきている。
・神解けの形状はインド神話のヴァジュラが密教として仏教文化とともに日本に伝わったものである。
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